研究者として-
クリエイター兼研究者として、映像・デジタル分野の研究開発に携わり、各種事業に取り組んだ。主な取り組みは、映像コンテンツの高画質化・デジタル化にともなう表現手法の拡大と、新規事業へ結びつけるスキームの構築である。主な業績を(1)~(4)にて概要を記す。(関連リンク|researchmap データベース型研究者総覧 - 小池秀樹)
(1)ハイビジョンにおける映像美術の検証と研究開発
民放初のハイビジョン作品「その木戸を通って」(監督:市川崑)の美術チーム(東宝とフジテレビの混成)において、次世代高画質映像(ハイビジョン)における映像美術(衣装・道具・装置)の検証と開発を行った。NTSCからハイビジョンへの移行にともなう、映像美術の新たな制作手引きを作成する役割を担うとともに、アートディレクターを兼ねる形で東宝市川組とフジテレビ美術チームの橋渡し(美術コーディネート)を担当した。その過程において、美術装置の高品質化への提言(釘の打ち方から、小道具の選定、かつらにおける技術促進等)をまとめ、並行してハイビジョンにおける時代考証の研究「時代劇の美術表現|アナログハイビジョンと35ミリフィルムにおける比較検証」を行った。本件の検証と開発は、次世代高画質映像におけるテレビ美術制作の指標の一つとなった。
(2)ハイビジョンにおけるデジタル映像表現の研究開発
テレビプログラム「SMAP×SMAP」のアートディレクターとして、セットデザイン・CGデザイン・VFXディレクションを担当。並行して、ハイビジョンにおける実写映像とデジタル映像の融合に関する研究開発に取り組んだ。NTSCでの映像処理基盤をハイビジョン仕様にするためのレンダリングや映像合成処理を高速化するスキームを開発。同テレビプログラムの映像クオリティーを底上げし、テレビ業界におけるデジタル映像表現のモデルケースとなった。
同時期に、ハイビジョンにおけるリアルタイム3Dの開発を担い、プリレンダーで蓄積してきたデジタル表現技術をインタラクティブ領域にフィードバックし、テレビプログラム「FNNスーパーニュース」におけるバーチャルスタジオ開発につなげ、民放初のデイリー運用バーチャルスタジオを実現した。本件開発におけるテクスチャー表現とデーターサイズの指標はバーチャルスタジオ開発の基準となった。
(3)ウェブにおけるデジタルコンテンツの研究開発
インターネット黎明期において、フジテレビ公式サイトのデジタル戦略を担当し、映像メインの社業に即したプロモーション施策として、テキストベースのウェブコンテンツに最先端のリッチコンテンツを実装する取り組みを行った。本件開発は、マルチメディアにおいて最先端だったMacromedia(現・Adobe)の技術をベースとし、ドラマやスポーツのWebプロモーションツールとして、アニメ・ゲーム・Web3D・動画を開発した。特筆すべき開発事例として、①テレビ業界初のWeb3D開発 ②プロモーションツールとしてのゲームコンテンツ開発 ③テレビ業界初のスポンサード動画コンテンツ開発が挙げられる。①については、ドラマ公式サイトにおいて、劇中のキーアイテムをWeb3Dで公開し、eコマースにつなげるビジネスモデルを構築した。②については、World Cupバレーボール公式プロモーションツールとしてイメージキャラクターによる対戦型インタラクティブゲームを開発。フジテレビ公式サイトのアクセス記録を塗り替え、ゲームコンテンツによるデジタルプロモーションの成功例として評価を得た。③については、動画コンテンツ開発においてスポンサードコンテンツ[1]を企画制作し、地上波の広告モデルをインターネット上で実現した日本初のビジネスモデル事例となった。
(4)4Kにおけるデジタル映像表現の研究開発
スカパーJSATへ編成担当主幹として出向し、次世代高画質映像(4K)の開発に取り組んだ。特筆すべき事例として、リアルタイム3D・VFXを活用した生放送ドラマの開発が挙げられる。松本零士原作「銀河鉄道999」をライブドラマとして放送するという試み[2]において、バーチャルスタジオとモーションキャプチャーシステムを組み合わせたリアルタイム3D・VFXによる新機軸のドラマ放送を実現した。4K放送のセールスポイントがライブ中継であることから、「ドラマをライブ中継する」という切り口で開発を重ねた、最先端のデジタル技術を利活用した事例であり、地上波においても同時期に生放送ドラマが編成される等、テレビ業界においてインパクトの強い開発事例となった。
独立行政法人国立美術館国立アートリサーチセンターに転じてからは、4K映像品質の3DCG・VR・動画コンテンツの開発に取り組んだ。AIを活用したゲームエンジン(Unity・Unreal)による4K映像品質のVR開発[3]と、収蔵品デジタルアーカイブ画像を利活用した4K動画開発等は全て筆者のハンドメイドであり、国立美術館初の内制事例である。
エキスパートとして-
クリエイターとして、デジタル技術に特化したスキルとその領域を拡大する形で、数多くのコンテンツを手掛ける。担当した作品の多くは各業界におけるスタンダードとなっている。主な業績を(1)~(4)にて概要を記す。
(1)テレビプログラムにおけるデジタル技術を活用したアートディレクション
「SMAP×SMAP」「とんねるずのみなさんのおかげでした」「FNS27時間テレビ」等の大型バラエティー番組でアートディレクションに取り組んだ。デジタル黎明期の完全内制において、デザインのみならず、サーバ・データベース・VFX編集システム・レンダリングシステム等、それぞれの設計を担いながらクリエイティブを推進した。「SMAP×SMAP」におけるデジタル技術を活用した先進的な取り組みは、第1回文化庁メディア芸術祭優秀賞[4]ほか多くの高評価を得た。これらの開発における成果物(インターフェイス、・デジタル映像制作基盤等)は、報道・情報・スポーツそれぞれの番組に引き継がれ、在京キー局において多くのフォロワーを生んだ。
(2)ウェブにおけるデジタルコンテンツの企画プロデュース
テレビプログラムのアートディレクションと並行して、フジテレビ公式ウェブサイトのデジタル戦略・クリエイティブディレクションに取り組んだ。ナローバンドからブロードバンドへとユーザーの回線が飛躍的な向上を遂げる中、主にリッチコンテンツ(アニメ・ゲーム・Web3D・動画)を企画し、ドラマやスポーツの番組公式サイトにおいてコンテンツ制作を推進した。
インターネット黎明期において、企画立案にともなう各種コンテンツ制作はハンドメイドが主流であり、ライティング・アートディレクション・ゲーム制作・動画制作を一手に担った。番組ウェブサイトの企画制作・番組PR・eコマース販促ツールとしてのリッチコンテンツの企画制作・地上波広告モデルをウェブで展開したスポンサード動画の企画制作等、国内初・業界初の事例を数多く手掛けた。それらの施策は、フジテレビ公式ウェブサイトのプレゼンス向上に貢献。マスメディアの公式サイトにおいてトップのアクセス数を記録し、賞レース・人気投票[5]においても常連となった。これらの取り組みで築いた各種基盤は、フジテレビオンデマンド(FOD)等、後発のウェブサービスの礎となっている。
(3)テレビプログラムにおける企画プロデュース
研究開発と並行して取り組んだ各種クリエイティブが評価され、CS・地上波テレビプログラムの企画開発に活動領域を拡げた。主な取り組みは、①新たなCSチャンネル開局とその基盤構築 ②地上波における編成制作での新規企画開発である。
①については、民放キー局主体でのCSによる初のハイビジョン放送チャンネル「フジテレビCSHD」[6]開局を担い、編成コンセプトを策定した。具体的な編成コンセプトとして、最大顧客を有するライブコンテンツ(スポーツ中継・コンサート中継)の高画質化を最優先とし、他の枠を調達したコンテンツ(シリーズもの)を連続編成する施策をプランニングした。さらに、5ヵ年毎の集客シミュレーションを行い、後継チャンネル「フジテレビNEXT」へと繋げた。②については、タレント頼みにならない企画至上主義を掲げ、単発もしくは3か月毎の効果測定が見込める地上波ドラマにおいて、企画プロデュースを10年間取り組んだ。具体的には、”オリジナル脚本による内制施策” ”新機軸の編成方針を織り込んだ特別企画の開発”である。前者においては連続ドラマ「魔女裁判」、後者では東野圭吾原作の3週連続企画[7]にて実現した。特に3週連続企画における成功は、在京キー局・BS局で多くのフォロワーを生み、現在においても定番の編成スタイルとなっている。
(4)美術館におけるデジタルコンテンツの企画開発
国立アートリサーチセンターにおける国立美術館各館(東京国立近代美術館・国立西洋美術館等)連携事業にて、VRコンテンツ制作・動画コンテンツ制作・ウェブコンテンツの企画制作を一手に担う。国立美術館初のデジタルクリエイティブ担当特定研究員として、ゲームエンジン・2D3Dアプリケーション・映像制作における技術スキルと、企画立案等における開発スキルを活かして、国立美術館初のコンテンツを数多く手掛けている。
東京国立近代美術館の3Dウォークスルーコンテンツ・VRコンテンツ[8]や同館公式YouTubeサイトにおける収蔵品アーカイブ4K動画[9]、国立西洋美術館の企画展プロモーション動画[10]・作品鑑賞動画、国立アートリサーチセンターの各種ウェブコンテンツ・プロモーション動画・アーティストトーク等の企画動画[11]を制作。デジタルによる美術作品鑑賞施策の研究開発と並行する形でクリエイターとして活動を続けている。
参考文献
[1] ニューリリース「フジテレビの3Dアニメ「A・F」」(2003年8月25日 日本工業新聞)
[2] 「999」実写で生放送(2018年5月15日 夕刊読売新聞)
[3] 東京国立近代美術館初の試みである展示再現3Dウォークスルー(展示名「再現VR」)(芸術科学会論文誌 2023年)
[4] 文化庁メディア芸術祭 第1回 デジタルアート(ノンインタラクティブ)部門 優秀賞(文化庁メディア芸術祭公式サイト リンク)
[5] Web of the Yearの一覧~メディア部門において連続年1位(ソフトバンククリエイティブ社主催 Wikipedia リンク)
[6] フジテレビNEXT(Wikipedia リンク)
[7] 超人気ミステリーを永作博美&藤原竜也&常盤貴子で初テレビドラマ化 東野圭吾3週連続スペシャル(シネマトゥデイ リンク)
[8] 国立アートリサーチセンターと美術館の連携事業 ― デジタル技術を用いた鑑賞体験(博物館研究 Vol.60 2024年12月 )
[9] 4K映像 横山大観《生々流転》1923年(重要文化財)(東京国立近代美術館YouTube公式サイト リンク)
[10] 企画展「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」プロモーション動画(国立西洋美術館YouTube公式サイト リンク)
[11] Artist Talk(国立アートリサーチセンターYouTube公式サイト リンク)
(2025年4月14日 改訂)
(2025年5月15日 一部改訂)